ふく百話(49)
「西日本ふく研究会」
西日本ふく研究会という会があります。平成4年(1992)に結成されました。長い年月ふくに関する情報交換を続けてきました。初代会長は小野英雄。下関唐戸魚市場(株)社長でした。会の結成由来は松村久、元下関唐戸魚市場(株)社長が取締役営業部長の時、セリ人の時代に山口県から水産課の職員や水産庁研究所が定期的にふくの体長、体重を測定、その後、漁獲船の仕切り書(売上明細)をコピーしておられました。興味を持った松村さんがふくに関係のある研究者の集まりを提案したことに始まります。私も理事の一員として設立に参画しました。事務局は下関唐戸魚市場(株)、構成員は西海区水産研究所(国)、
福岡県水産海洋技術センター、山口県水産研究センター(外海、内海)、下関市水産課、水産大学校とそうそうたるメンバーでした。
この2年間はコロナの影響で会は休止状態ですが今までに10周年、15周年、20周年と記念誌をまとめています。各回100ページに及ぶわが国を代表する研究成果です。会場は南風泊市場活魚センターです。研究発表後にはふく料理教室もあり全国の研究者に喜ばれました。
主な講演を紹介します。10周年記念誌。世界のフグ食(長崎大、多部田)、トラフグ放流開発事業(山口県、天野)、東シナ海・黄海産トラフグの資源と生物学(水大、竹下)、ふく調理方法と味わい方(ふく名人、西山)、業界から見たフグの生産・流通・消費の現状と今後の展望(萩生産者・仁保。
卸、松村。仲卸、山岡)、フグ毒生成の謎に迫る(山口県、松村)、河豚に憑かれて50年(岸和田、北濱)、水産加工の現状と消費者ニーズ(萩、広瀬)、熊野灘から遠州灘におけるトラフグの行動調査(三重、藤田)、ふく流通の現状(卸、中尾)、中国養殖ふぐの現状(卸、松村)。
15周年記念誌。トラフグ放流魚の追跡用遺伝標識(愛媛、高木)、大阪のふく事情(大阪、木畑)、瀬戸内海のトラフグ資源の現状(水研、永井)、イラストマー標識を用いたトラフグの放流効果調査(静岡、田中)、ふぐゲノム研究の現状と課題(東大原田、渡部)、ふぐ醤油の開発(水大、原田)、トラフグ資源回復計画(水産庁、吉永)、山口県日本海沿岸のフグ目魚類(海響館、土井)、フグの毒化機構(東京、野口)、20周年記念誌。ふくと言えば下関、下関と言えばふく(市長、中尾友昭)、ふくの刺身(下関、荒川)、フグの流通経済(市大、濱田)、無菌化技術を使った長期熟成フグフィレーの開発(水大、芝)、フグの輸出と輸入(卸、岡田)、フグの淡水適応と生理学研究への利用(東工大、加藤)、フグからみた日本史(徳山、青木)、下関フグのブランド・エクイティとビジネス環境変化への対応課題(山大、古川)、高成長トラフグのゲノム育種研究の現状(東大、渡部)、トラフグコラーゲンを用いた化粧品(田島)、下関フグのブランド経済学(市大、濱田)、ふくと海響館(館長、石橋)、DNA分析で見えてきた日本沿岸のトラフグ(水研、片町)、DNAによるフグ食中毒原因種の鑑別(九大、望岡)、フグ食解禁について(長崎、宮本)等多岐にわたっています。
今回改めて各号に目を通しました。時代とともに科学技術的な話も多くなり、DNA遺伝子、ゲノム編集などが登場します。一方で下関ふくブランド化へ向けた取り組みも下関市立大学を中心として研究されました。
研究発表者の中には私が恩師と仰ぐ、元水産大学増殖学科教授、長崎大学名誉教授の多部田修先生、私の修士論文担当主任教授の市立大学濱田英嗣教授や山口県、下関市、業界の関係者も多数おられます。
時間が少し経過しましたがお世話になった皆さんの研究報告をこの「ふく百話」で紹介させていただこうと考えています。51回以降シリーズで取り上げる予定です。それに関連して友人の元下関唐戸魚市場(株)社長、松村久さん、元下関唐戸魚市場仲卸人組合長の中尾孝さんのことも紹介したいです。
我々3人は下関ふくの縁で共に青春時代を過ごした仲間です。
時代の記憶が薄れてきた今、記録を残したいと思います。