ふく百話（９６）
「日本一のふく養殖施設」
下関産のふくを生産すべきだと提案される方が時々おられます。下関は古くからふくの集散地ではありますが、前浜で漁獲や養殖生産されてはいません。
下関ふくのブランド維持のためにも官民挙げて取り組むべきだと思います。
下関市には何といってもわが国で水産を冠とする唯一の大学、水産大学校があります。そして長い歴史の下関市栽培センター（水産研究所）、下関市にはありませんが山口県の水産研究施設が長門市仙崎、外海水産試験場が長門市と阿武町に、内海水産試験場が秋穂に、栽培漁業公社があります。ふくの人工ふ化には大きな実績があります。魚類飼料会社の林兼産業の工場もあります。何より本場の下関唐戸魚市場（株）南風泊市場をはじめ仲卸人や二次加工業者、加工場が集積しています。その規模は断トツの全国一番です。さらに観光、飲食、宿泊が加われば「下関ふく」ブランドは名実ともに日本一です。
いわゆる産官学が揃っているのです。日本一のふく研究拠点となるべき都市なのです。ふくに関する研究、著作なども数多いです。
水産庁においては天然トラフグの研究を全国で実施しています。水産大学校と山口県との水産共同研究で「下関ふくの差別化と輸出拡大のためのIT利用目利きの技術開発」が行われました。
研究の目的は「下関のフグに関わる水産業者の収益の増大」を達成するため、漁業者や仲卸業者等の目利きに科学的裏付を与え、下関を通過する様々なフグの安全性の保証と品質の選別、および他地域との差別化が可能となるIT利用の「種・雑種鑑別目利き技術」や「品質目利き技術」を開発・導入し、国内外へのアピールを行って消費や輸出拡大につなげるものです。
波及効果として「フグ類流通の安心・安全の確保と品質評価による付加価値向上」、「フグ類の流通量の増大と地域経済の活性化」が挙げられています。
最近の研究では「フグ食の科学」２０２１年３月発刊があります。この研究は国立研究開発法人・水産研究（水産機構）水産大学校、酒井治己名誉教授を中心とした「下関のフグ共同研究機関」によるものです。
広い下関といえども養殖場の適地は少ないのですが、私は候補地として垢田の沖合人工島又は南風泊水産加工団地を提案します。南風泊の土地は全て民間に売却されています。ただし、厚生用地や未利用地もあります。
人工島は関門海峡の土砂処分場として１９９５年から工事が始まっています。計画では１４７haです。まだまだ工事中ですが完成土地から民間売却が始まっています。
人工島は私が市長就任時、土地の埋め立ては進んでいるのに反対運動がありました。反対派の学者は下関港湾計画は失敗すると言われました。博多港に全部取られると言うのです。私は博多のような大規模港湾でなくても中規模で東アジア等と貿易できると考え反論しました。結果は私が主張したとおりになっています。港湾整備が進み、コンテナ対応のガントリークレーンを整備し、実績が評価され反対運動はなくなりました。関門海峡の商港との利用区別は接岸後、船の胴体が開き自らトレーラーでコンテナを荷下ろしできる貨物は東大和町の下関港岸壁へ。ここは関釜フェリー、上海フェリーのターミナルです。それ以外でコンテナを自ら降ろせず、吊り上げが必要な貨物は人工島です。
それに加え、現在はコロナ下で休みですがアジア最大の大型クルーズ船が着岸できます。その岸壁整備も完了しています。
ここに大規模な産官学あげての、ふく養殖施設の提案です。規模は未定ですが陸上養殖施設と海上養殖施設の二つが考えられます。陸上施設は全天候型の体育館のような施設となるでしょう。すぐそばが響灘という環境に恵まれているので海上養殖も検討すべきです。
今回の資料を収集中、日経新聞３月１日付に「沖合養殖自動化」という特集記事が掲載されました。見出しは「エサやりなど海上労力はほぼゼロ」、「いけす、沿岸の５０倍まで可能」という夢のような言葉が躍っています。
記事を要約すると、養殖業に適さなかったわが国の沖合で、大規模な養殖システムの導入が進みそうだ。日鉄エンジニアリングは２０２３年から人工知能（AI）や水中カメラ、自動給餌のシステムを総合的に提供する。エサやりの作業時間が４分の１以下になり、海上での労力はほぼゼロとなる。
日本の水産業は天然魚を獲る漁業が中心で、漁獲全体の８０％を占める。養殖業の生産は横ばい。養殖に適した沿岸エリアの活用は飽和し、自動化も遅れている、加えて担い手不足と３つの課題を抱えている。陸上から離れた沖合は広いが養殖での活用は少ない。船でエサを運ぶ負担が重く、海が荒れると作業ができず、収益性の低さが壁になっている。
日鉄エンジニアリングは大規模な沖合養殖の自動化を開発し２３年から提供する。主な特徴は３つ。
��AIを使って遠隔での生産管理。岸から数キロ離れたイケスに水中カメラやセンサーを備える。魚の体重、エサの残量、水温、潮流、日照など様々なデーターを組み合わせ最適給餌をする。
�⇔�上からの配管を通じ、自動で沖合のイケスにエサを送る装置。従来は重労働で天候に左右されたが荒天でも稼働し、養殖生産コストの６〜７割を占めるエサ代の削減につなげる。危険を伴う海上作業がほぼゼロとなり作業は事務所での机上に変わる。
�Ｂ舂明源困亮存修砲覆襦�新システムのイケスは沿岸で一般的な養殖で使うイケスの最大５０倍のサイズ。一部の装置は鳥取県、三重県、宮崎県で導入済。
会社の説明ではシステム導入費用は大型で１０億円〜１５億円、メンテナンス費用は年額１千万円程度。２３年に導入した企業は３０年に１００億円の売り上げを目指すとのことです。長崎県では大学、民間企業、金融機関など１０社共同で共同事業体を立ち上げ、大手漁網会社の日東製網も大型イケスの製造を手掛けています。食料安全保障が懸念される中、養殖業の拡大につながる可能性があります。ふくはサケ、ブリ、タイ等と比べ高級品のイメージがありますが、下関でのミガキ処理や刺身などの二次加工力を加味すれば全国有数の産地となれると思います。名実ともにGI（下関ふく）です。
私は人工島に大規模な養殖ふく施設ができるなら、併設して「ふく博物館」を整備すべきと思います。海響館は「世界一のふく水族館」ですが展示が主体で博物館機能は弱いです。また下関市立大学には私が南風泊市場勤務時代に取集した多くの資料が保管され研究室となっていますが、活用はされていないようです。さらにせっかくの本場ですので「ふく料理」食堂や土産センターも考えられます。人工島へのクルーズ客はいずれ年間、数十万人となるでしょう。
九州、中国地区で大型船が着岸でき希望が多い港は長崎、博多、境港と下関です。
観光の帰りに土産センターで買い物等しても船には歩いて帰れます。
関係者には、沖合人工島を活かすためにも広い視野をもって取り組んで頂きたいです。
