ふく百話(1)
「ふく」と「ふぐ」
このたび「ふく百話」を連載することとしました。中尾友昭です。面白い「ふく百話」を目指します。よろしくお願いします。
「ふく百話」連載にあたり第一回を何にしようかと考えました。現在下関市内では「ふく」と「ふぐ」が入り交じり、人々も名称にこだわっているようには見えません。どちらも正しいというが正解なのですが連載にあたり語源の検証をしてみました。私は1968年に下関唐戸魚市場(株)に入社しました。場所は現在のカモンワーフです。天然物100%の時代で「ふく」と普通に発音していたように思います。午前1時からのふく荷役作業で鍛えられました。原点です。
近年は若い人では普通に「ふぐ」またネットショッピングでは「ふぐ」と表示しなければヒット数も少ないようです。しかしここは「ふく」という名称にこだわるものとして少しまとめてみました。
「ふく」の語源にはいくつかの説があります。平安時代の辞典「倭名類聚抄」(わみょうるいじゅしょう)に「布久」の記述があります。また、ふくへ(ひょうたん)に似ている、膨れる、朝鮮語起源説、海底の餌を吹いて探す等です。
私は朝鮮語起源説を取りたいです。韓国語で「ふく」は「ポゴ」です。古くは朝鮮半島から文化が伝わっています。朝鮮語のポゴからポク、ホク、フクになったというものです。昔は「ポ」の半濁音が我が国ではなかったそうで「ホク」、「フク」になったようです。西日本では今でも「ふく」と呼ばれるのはそのためです。ちなみに韓国語で鍋料理は「チゲ鍋」で、日本では「ちり鍋」、何か似ている感じがしませんか。平成28年農林水産省は地域ブランドの水産物第1号として「下関ふく」を認定しました。
ところで「く」という発音が東日本では苦手のようで「ぐ」になった。明治になって魚類図鑑の名称を統一するとき関東地方や築地市場で呼ばれていた「ふぐ」になったようです。また「ふぐ」は不具、不遇を連想させると避ける言葉でもあります。面白いもので東京のふく関係者から言わせれば「ふぐ」は福が沢山あるから複数の濁点がついているのだと反論があります。
もっとも最近は語源にまでこだわる人はわずかで「幸福のふく」と呼ばれています。結論は下関ふくが全国的に有名になった今、「ふくでもふぐ」でも正解というお話です。ただし関係者にはこだわって欲しいです。
市長当時、取材で「下関ふく」の話をするときには「ふく」と気を付けて発音していましたが取材者からは中尾市長は今、「ふぐ」と言いましたねと指摘を何度か受けました。なかなかむつかしいです。
今後この百話では通称は「ふく」、標準和名(魚類図鑑に掲載されているもの)や法律で規制のあるものなどの場合は「フグ」を使用することとします。