ふく百話(8)
「ふくはなぜ毒を持つのか」
ふくはなぜ毒を持つのか、毒の目的は。どうやってふくの毒は作られるのか。
養殖フグには毒がないって本当? フグ毒に関わる疑問は尽きません。
私はふくに毒があること、適切な処理をすれば最高の美味になること。これらのことがふくが話題性、神秘性、食文化等で特別な扱いを受けていると思います。
フグ毒の研究が始まったのは明治になってからです。当初は毒がどこにあるのか、毒の強さ等が研究対象でした。最近は毒化の解明が進んでいます。ふく毒はどのように作られるのか、長い間、研究者の間で見解が分かれていました。
生まれたときから毒を体内に持っている(内因説)、外から取り入れている(外因説)がありました。それがあるとき、ほら貝の一種の内臓(日ごろは砂などが多く食べません)を食べた人がフグ中毒になったのです。それから研究が進み、フグ毒は外部から食物連鎖(生物濃縮)によって毒をため込んでいることがわかりました。フグ毒をもつ生物は、人が食べないハゼ、タコ、バイ貝、ほら貝、カニの仲間にも発見されています。ふくはこれらを天然の餌としているのです。
加えて海洋細菌が毒の形成に関与していることもわかってきました。フグ毒を食べた魚は死にますが、ふくは特別のたんぱく質がありフグ毒では死にません。
次の疑問は何のために毒を持つのかということです。解明はまだですが幾つかわかってきました。まず外敵から身を守るためです。多くのふくは内臓に毒を持っています。毒は青酸カリの千倍と言われていますが敵から食べられた後で毒が効いても身を守ることにはならないのではと研究が進められました。小型のふくを他の魚と一緒にしたところ他の魚が死んでしまったという研究があり、ふく毒は皮から放出されている。またクサフグの卵、稚魚はふく毒を持っており他の魚が捕食しても直ぐに吐き出すそうです。産卵期にフグ毒が強くなる「季節差」がここで証明されています。私は南風泊市場時代、東京大学のふく研究者から頼まれて内海物トラフグの肝臓100匹分を大学に送りました。その後、連絡があり、内海物については毒が極めて少なったと報告を受けました。後日、ふく毒の食物連鎖の話を聞き瀬戸内海にはふく毒をもった餌が少ないこと、それで昔から大分県を始め瀬戸内海沿岸地域ではふくの肝を食べる習慣があるのです。ふく毒は煮ても焼いても消えませんので調理人の腕ではないことがわかります。
地域で毒が異なる「地域差」、同じ漁場でも毒が異なる「個体差」もあります。