ふく百話(55)
「クサフグの産卵」
毎年この時期になると「クサフグの産卵」がニュースとなります。山口県では産卵地として県の天然記念物に指定されている光市室積海岸が有名です。
クサフグは全国に生息しており、その産卵場所も全国各地にあります。
産卵時期は6月が最盛期です。大潮の数日前にクサフグの群れが海岸に現れ、雌が浅瀬の小石や粗い砂に卵を産み付け、その上に雄が群れあって一斉に精子を放ち受精させます。海岸は白子の色で真っ白になります。卵は3〜4日で孵化し、大潮の波にのって沖にでるのです。
クサフグはフグ科トラフグ属に属し、北海道南西沿岸から沖縄、韓国釜山周辺などに生息しています。小型種で、内湾や川の河口域などの浅瀬で漁獲される我々に一番身近なフグです。釣りの世界では仕掛けを鋭い歯で噛み切るなど非常に嫌われています。投げ釣りなどでは代表的な外道です。子供の頃は釣り上げて膨らんだものを踏みつけて破裂させて遊んでいました。
名前の由来は草色をしたフグでクサフグという語源だそうです。地方によって様々な呼び名があります。山口県ではクサフグ、スナブク、イソフク、ハマフグ、チーチーブク、シャジャブク、コマル等、いろいろあります。それだけ身近なふくなのです。このクサフグ、体は小さいのですが見かけによらず毒が強いのです。筋肉、精巣は弱毒。皮は強毒。卵巣、肝臓、腸は猛毒です。なお、厚生省の食用に供することができる一覧表(第6表)によればクサフグの可食部位は「筋肉」のみです。
フグの毒の表し方に「毒力」と「毒量」があります。猛毒とは1000マウス(1マウス単位とは体重20グラムのマウスを30分で死亡させる毒量)以上のことです(10グラムで致死量となります)。大人の致死量は1万マウス。
毒量の計算式は毒力*その臓器の重量(グラム)=毒量
文献によるとフグ1匹で何人死ぬかの計算では、マフグで33名、トラフグ(天然物)13名、ヒガンフグ11名が毒の強い順番です。いずれも肝臓や卵巣です。今回のクサフグが猛毒という割には表にでてきませんが、魚体が小さいので毒力は猛毒でも毒量のもととなる臓器が小さいためです。
とは言っても、ふく中毒で一番多い事例は釣ったクサフグを素人料理で皮や肝などを食べてフグ中毒になるのです。死亡まで至らなくても「痺れ」ます。養殖トラフグの肝臓が無毒ということで解禁を求めた動きがありますが、庶民のふく毒に対する危機感が薄れ、素人料理で事故が多発する恐れを本場下関では危惧しているのです。フグ毒のはかり方、最新情報では動物愛護の動きから機器使用、培養細胞利用、フグ毒抗体利用などの研究が進んでいます。