ふく百話（５８）
「�眇�晋作とふく」
幕末に活躍した英傑はたくさんおられますが、下関でとなると限られます。その中でも筆頭は�眇�晋作（１８３９〜１８６７）だと思います。出身は萩市。�眇�晋作に大きな影響を与えた恩師が吉田松陰。�眇�は上級武士の長男として生まれ藩校明倫館で学びました。１８５８年には藩命で江戸に遊学しており優秀な武士でした。晋作といえば「ざんぎり頭」のイメージですが萩の晋作生誕地そばの「晋作広場」には２０歳頃の「�眇�晋作立志像」があり両刀をさした羽織、袴の「まげ姿」です。
１８６３年、尊王攘夷を掲げる長州藩は関門海峡を通行する外国船を砲撃、その後、晋作は下関において外国軍艦の攻撃に備えるため身分にとらわれない農民、町民も入隊した「奇兵隊」を結成したのです。奇兵隊は倒幕戦争において明治維新に向け大きな歴史的役割を果たしました。元治元年（１８６４）、英・米・仏・蘭の四か国連合艦隊が下関を占領しました。晋作は萩で謹慎中の身でしたが四か国連合艦隊の講和使節役に命ぜられ見事大任を果たしました。この時の日本側通訳は晋作の部下で後の初代内閣総理大臣となる伊藤博文でした。全国に先駆けてご禁制のふくを解禁した人物です。
その後、晋作らは幕府に従おうとする勢力（俗論派）を押しのけ、藩政府を打倒すべく長府の功山寺において決起したのです。当初は少数派でしたが徐々に支援者を拡大し倒幕へと進んでいくのです。
ここまでは良く知られた歴史の事実ですが、「ふく」との関係ではどうだったのでしょう。
ふぐを食べないことは武士の論理かもしれないが、下関の庶民はふくを食べ、下関の豪商、白石正一郎の日記にはふくを肴に武士たちと酒をのんだという記述が何度も登場します。晋作は萩の出身だから小さい頃からフグは沢山食べたに違いない。下関郷土史家たちは、晋作にふくを重ねたようで、ふく解禁は伊藤博文で全国的にも有名になったが本当の意味で下関のふくの美味しさを広めたのは�眇�晋作だと熱く語った先人もおられます。長州藩では禁制のふくをこっそり食べていた武士がかなりいたようです。また下関では庶民が普通に食していました。
ところが、調べていくと晋作はどうも「ふく」が好きではなかったようで食べなかったようです。それは師匠である吉田松陰の影響が強いと思われます。
萩市観光協会のHPによれば「�眇�晋作が好きだった食べ物は何か」と問い合わせがあるそうです。
晋作は手紙や日記に食べ物についての記述や感想などは記していないのです。武士が食べ物について、あれこれいうのはみっともないと考えるのが武士でもあります。ただ、後年、晋作の本妻、マサ夫人が語った思い出に好物の話があります。晋作は衣食住に対して大変淡白であった。ただ食べ物で好物をいえば「鯛のあら煮」と鯛の白身ばかりの鮨「長州鮨」だった。下関の郷土史家と称する方たちは、どうしても晋作にフグを食べさせたかったらしい。フグの毒を怖れる晋作ではないということです。晋作がフグを食べなったことは、入江貫一が大正１１年に紹介した「山県公のおもかげ」に記されている。それによると幕末の頃、他の同志がフグ鍋で酒を飲む中、山県だけはひとり別の鍋で鯛を煮て酒を飲んでいた。その席に晋作が入ってきてあたりを見回し「吾輩もこの方が良い」と山県とともに鯛鍋を食べたということです。晋作はフグを避け、食べなかったのです。この話は入江が山県より親しく聞いたことだと記述されているので確かな話です。大胆、型破りのイメージが先行する晋作だが、松陰の教えもあり、慎重なところもあったことが伺えると紹介されています。新地町の一角に若干２７歳で逝去した�眇�晋作終焉の地史跡があります。有志が清掃活動など行っていましたが荒廃していました。現在は再整備され立派な史跡となりました。再建には東京の�眇�家はもちろん、白石正一郎の末孫も寄付をされました。�眇�さんの時代を超えて白石さんにお世話になりましたと再整備完了挨拶でのお礼の言葉が印象的でした。
