ふく百話(69)
「西日本ふく研究会、最新報告」
令和元年(2019)第29回西日本ふく研究会が南風泊市場で開催されました。研究会では(1)ふくの美味しさとは、(2)爆食 進化する関西ふぐ料理店とインバウンド、(3)ふぐ処理施設におけるHACCPの考え方、(4)トラフグ栽培漁業の直接効果と再生産効果の検討の4題の講演が行われました。
(1)ふくの美味しさとは(水産大学校、宮崎泰幸先生)
美味しさを決める要因は多岐にわたりますが、水産物の味を決めるのはエキス成分です。特にアミノ酸とイノシン酸が美味しさにつながる重要な物質です。フグについての研究は少ないのですが私の実験ではイノシン酸は熟成により増加することがわかりました。また養殖トラフグの筋肉を用いた実験からアミノ酸の一種であるタウリンが他の成分と比べて高いこと、他は極めて少ないことなどがわかり、淡白な味であることが実験的に確認されました。これらに加え、香気に関する研究を行ったところ目利きグレードによって香りが異なること、熟成により香気成分が変化することなどが明らかとなりました。
(2)爆食 進化する関西ふぐ料理店とインバウンド(関門海、大村美智也氏)
2018年の訪日外国人数は過去最高で今後も増えていくことが予想されているため、インバウンド対策が重要となります。社内研修では英語だけでなく中国語も学べる仕組みを作り、近年増えている訪日中国人への対応を考えています。
また言語だけでなく時代の変化に併せた対応も必要です。最も大きな点はSNSの発達です。近年、旅行中の写真がSNSに投稿され、その投稿記事が旅行前の情報収集に用いられることがあります。そのため、SNSに投稿したくなるような仕掛けをすることで集客する取り組みも行っています。海外の方にフグ料理を食べてもらうことを通じて、日本食を世界に広めていくことが出来ればと考えています。
(3)ふぐ処理施設におけるHACCPの考え方(山口大学、豊福肇先生)
2018年6月に食品衛生法の一部を改正する法律が公布され、HACCPによる衛生管理の制度化が決定しています。HACCPとは食中毒菌等の危害要因を分析し、それを除去もしくは低減するための特に重要な工程を管理して、製品の安全性を確保する手法です。フグ処理施設についても例外ではなく、フグを取り扱う事業者自身による危害要因の洗い出しと重要工程の設定を行わなければなりません。フグ処理の重要工程としては、フグの受け入れ、有毒部位の除去、金属の混入検査などが挙げられます。これらの項目について、いつ、どのように、行うのか、問題があった時、どのように対処するのかを予め考えておき、これらに対応する記録用紙を作成します。あとは日々の作業について用紙に必要な情報を記録していくこと、定期的に記録を見返すことで食中毒の発生を未然に防ぐことが可能となります。
(4)トラフグ栽培漁業の直接効果と再生産効果の検討(瀬戸内海区水産研究所、片町大輔氏)
栽培漁業とは、人間の管理下において孵化・育成された稚魚(人工種苗)を天然海域に放流し、自然の海で成長したものを漁獲する漁業です。人工種苗放流には、それら自体の加入による効果(直接効果)とそれらが成熟および繁殖することによる効果(再生産効果)が期待されています。2002年〜2017年における直接効果を調査したところ加入尾数に占める人工種苗の割合は40%未満であること、放流した人工種苗の生存率は10%未満であること、これらの割合は年により変動することがわかりました。一方、有明海や瀬戸内海では天然海域から採取した個体の中に人工種苗が繁殖に寄与している可能性が考えられました。
編集後記。(水産大学校、辰野竜平先生)
第29回西日本ふく研究会は、ふくの美味しさから栽培漁業に至るまで幅広く、奥の深い内容が提供され、これらの講演について活発な意見交換が行われました。このようにフグに関わる様々な方々が一堂に会して議論を交わす機会は大変貴重です。今後もこの研究会を通じて「ふく」の魅力を高め、発信していくことができればと考えています。