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ふく百話(77)

「ふぐ肝特区論争」

市長在任当時の平成28年1月、佐賀県が佐賀県内のふく養殖業者と共同で厚生労働省に対し、毒性検査で有毒でないことを確認した養殖トラフグの肝臓を提供する提案を行いました。

その時、ふく日本一の街・下関の市長として報道からコメントを求められました。私はふくの業界で長く仕事をしました。養殖ふくには毒がない(少ない)という話は何度も聞いていましたが、長年の経験でフグの肝を食べないことで食の安全を保ってきた下関ふく関係者として、たとえ毒性検査をしたとしても加工段階、流通段階で検査済以外のふくが流通したり、何よりふく中毒で一番多い素人が釣りで釣ったフグでの中毒が絶えない現状をみると、安易にフグの肝が食べられるという誤解が広がりフグ中毒増加の恐れがあり反対でした。

また養殖されているふぐの全量検査ではなく、部分検査を行って無毒であったから全量の安全性を認める厚生労働省の許可は難しいと思いました。もし事故が起きたら許可した厚生労働省にも責任が生じるからです。

中尾市長のコメントは「フグ肝を食べることはふく料理の邪道だ」でした。

これに対して佐賀県知事のコメントは「何をおっしゃいますやら」でした。

そのことがマスコミに面白、可笑しく取り上げられ論争となりました。佐賀県が関わっているので慎重な手続きは取られていました。最初の話は平成16年12月、佐賀県及び温泉がある嬉野町が構造改革特別区制度(特区制度)に基づき養殖トラフグの肝臓の可食化を求める要請を国に提出したことに始まります。翌年、厚生労働省は「佐賀県及び佐賀県嬉野町が特区制度に基づき提案した方法により養殖されるトラフグの肝」についてのリスク評価を内閣府食品安全委員会に諮問しました。

(1) 佐賀県の提案内容
テトロドトキシンはトラフグ自ら体内で産生するのではなく、海中の細菌が関与し、食物連鎖によってフグの体内に蓄積されるものである。そのうえで、毒性のないトラフグの養殖技術とされる囲い養殖法を応用し、トラフグの餌となる有毒生物を遮断して養殖されたトラフグの肝は無毒であると提案する。

(2) 内閣府食品安全委員会の評価結果
�� 現時点でトラフグの毒化機構は十分に明らかとはいえない。
�� フグの毒化機構が十分に解明されていない以上、養殖方法における危害要因及び制御すべきポイントを特定することが不可能。
�� 提案された養殖方法が恒常的にトラフグの無毒化に有効であるか否か判断が難しい。以上の理由から不許可となりました。

二度目の平成28年の提案は事業者が前回提案に改良を加えたものでした。佐賀県は第三者委員会を設置し検討しました。審議の結果「妥当」と判断し事業者と共同で厚労省に対し再度、提案したものです。

県議会議員、市長を経験した私の考えでは「県」が第三者委員会まで設置し、妥当として県知事名で国に書類を提出することは、かなり重たい決定です。

平成28年の提案は陸上養殖されたトラフグの肝臓の一部を1匹づつとって検査を行い、フグ毒が全量無毒であることを確認したうえで、提案者のレストランのみで提供するというものでした。

これに対して国の判断は、たとえ陸上養殖であっても食品としての安全性を確認できない。1匹づつ検査するとしても肝臓全体の食品としての安全性が確保できるか判断できない。等の理由により再度、不許可となりました。

以上のようにフグの肝はどのような方法で検査、調理をしても食品として提供することは「食品衛生法」に基づき禁止されているのです。県によっては料理にフグ肝がでてきますが、公に認められているものではありません。

元下関ふく連盟会長の松村久さんと話しました。松村さんは若い時、フグ肝を食べて当たったことがあるそうです。松村氏の話では現在、業界の課題は北海道、東北地方で大量に水揚げされている「交雑種フグ」の取り扱いだと述べられています。